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   夢通信    衣川製鎖工業株式会社

『たたら製鉄見学記 2』  (3月号)


 ゴーコー、ゴーコーと先程まで吠えていた炉が静かになりました。ふいごの風が止めら れたのです。炎がゆっくりと優しく燃えています。10人程の作業者達は、ふいごから炉 に風を送っている、木呂を外し、炉の周りをきれいに片付け始めます。長い柄の着いた熊 手のようなものを壁際から炉の側の天秤山に持って来ました。ガラガラガラ、炉の前後に ある建物のシャッターが開かれ、戸外の冷気と明るさがイッペンに室内を満たしました。
 「ヨーシ」村下の声に、作業員が前後左右に別れ全員持場に着きます。天秤山の上に上 がった村下ともう一人が「ヨーィショ・ヨイショ」掛け声と共に、熊手の先の上釜を崩し ます。「ドスン」釜土は外に落ちます。「ヨイショ・ヨイショ」威勢の良い若い人達が崩 れ落ちた釜土を外の雪の上に引っ張り出します。「ジュ・ジュ・ジュー」沸き立つ湯気と 共に大きな音がします。上釜・中釜・元釜と順に崩してゆきました。炉壁が全部取り壊さ れ玉鋼の上に残った、炭火が燃え盛るのが見えて来ました。炭火を脇に除け、真っ赤なケ ラが顔をだしました。100名余にもなる、大勢の見学者からどよめきが起こりました。 感動の声も聞こえます。「あっ!」「ワアー」「わあ・わあ」
 しばらくするとざわめきも収まり、静寂が訪れました。たたら場の中に祀ってある金屋 子神に玉鋼の誕生と操業の無事を感謝する祈りが始まります。その場に居会わせた全員が 小鉄町の上に祀られている、金屋子神様に向かい、拝礼します。一瞬、静まりかえった場 内にピーンと張り詰めた糸が見えるようでした。「ご苦労さんでした」村下の声に若い衆 がお神酒を右手に、沢山盃の乗ったお盆を持って、「どうぞ・どうぞ」関係者はもとより 見学者にも振る舞い酒を配って回ります。
 1時間余りの休憩の後、ケラが持ち上げられ引っ張り出されます。この頃になると見学 者も数名、関係者もごく少数になっていました。緊張した作業員がケラに鎖を掛け吊り上 げた瞬間、「ボーッ、ボーッ」とケラの下になっている床面から炎が吹き出します。高温 に耐えた、炉の下の下灰が空気を吸って燃えだしたのです。その金色の炎は日の出の太陽 のように、ゆらめき輝いていました。



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