新しい刀を古く見せる法く


 「新しい刀の表面にねずみの糞を塗り、酢を入れた桶の上に渡し、一晩おく。
  酢の気を受けてから、表面を軽く磨けば、古い刃のようになる」
                        (秘事指南車・上・19頁)

 いつの時代でも、骨董の世界では偽物が出まわる。現在ならルイビトン、プラダなど、 素人目には本物と区別のつかないものもある。(中略)
 刀も武具という力と鉄という文化的権威の象徴であり、権力者が保持し、さらに支配を目的に 下賜するという使われ方をされた。また、権力者にとっていま手に入らない古いものは、 時間を含めた価値がある。つまり、時間の経過は人間の力が及ばないものである。 どんな権力でも時間に対して何の影響力ももたない。
 そこで、みせかけの時間を得るという方法が使われた。ものを古く見せるというのがその方法である。
 刀の場合、自然環境のなかで徐々に錆びがついて、いわゆる古色が現れる。
作ったばかりの刀は、ぎらぎらしてはいるが色に深味がない。錆びが出ては研ぎ、錆びが出ては 研ぎと繰り返されると、ぎらぎらがなくなり深味が出てくる。錆びも急激にできた錆びと 長い時間かかってできた錆びでは、その質が違う。長い時間かけて出た錆びのようにしなければ、 古い色とはならない。酢は酸のなかでも弱いほうである。その意味では、 長い時間の酸化に適応するのかもしれない。
 ここに書かれているねずみの糞は、金属工芸でしばしば登場するが、まだその効果については 明らかではない。尿酸を含む尿は金属の酸洗い用に使われた例(インカ帝国時代)はあるが、 糞については世界でも例がないのではなかろうか。


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