天羽吹(天羽鞴) 1


   『日本書紀』の中で高天原(たかまがはら)の製鉄神話に登場する天羽鞴(あまのはぶき) は原始的な吹子と言われています。私は(窪田蔵郎)ほぼそれに近いと思えるものを中国、 新疆(しんきょう)ウイグル自治区の烏魯木斉(ウルムチ)市にある省立博物館で、かつての ウイグル族の鍛冶屋が使用していた道具の中に見出しました。もちろん古代のものではなく、 せいぜい50年か60年前程度のものです。

 その構造は羊一頭分を丸剥ぎにし、これを毛の付いたまま鞣(なめし)し、袋縫いして 簡単に羽口(はぐち)を取り付けただけのものである。羊の皮は背中を中心に縦に二つ折りに して尻の部分を切り、腹の部分で大きさを決めて、首と足の部分を除いて求める漏斗状(ろーと) の形に整え、腹の部分を縫い合わせている。取手となる木片を取り付ける近くは左右とも20センチ くらいが縫ってない。首の部分には直径4〜5センチくらいの厚いトタン製で、先を狭まらせた 羽口を取り付け(操業時はさらにここに粘土製の羽口が付く)、尻に近い部分には太さ50センチ くらいのポプラの杖を55センチくらいの長さに切り、二つ割りしたものを革紐で4〜5カ所ずつ 各々の皮に縛りつける。これだけで他には弁も何もない。これでバタパタと取手を頻繁に動かす ことによって、空気は袋の中に波状に送り込まれ、余り強くはないであろうが羽口から炉の中へと 噴山されることになる。

シルクロード鉄物語より  窪田蔵郎  雄山閣  1995年
(文章の一部改変  図は衣川が着色しました。)

感想やご意見をお送りください。投稿も大歓迎お待ちしています
戻る 進む