刀匠 大野 兼正 見学記 2
『こんにちは』と声を掛けると、前回、新見でお会いした弟子の大和久さんが戸を開け
てくれました。『どうぞ、汚いところですがお茶でも』と居間に誘われあがりこみ、お茶
を頂いてから鍛刀場を見せていただきました。この工場はバブルの前までナイフ工場でし
たが、機会を得て買いました。と説明された建物の裏手に、新見で見たのと同じ兼正流小
たたらの炉がありました。操業後に前面を壊された炉には操業の様子を物語るノロが壁面
についています。
『これが海綿鉄です。たたら操業の時、一番初めに砂鉄が還元され、海
綿のように、スポンジのように穴だらけでガサガサした鉄で、炉壁に着いたり最後の炭の
近辺にできます』普通はそれが溶け落ち、ケラに成長するので。そう説明されました。本
の中では何度も見た名前ですが現物を意識して見るのはこれが初めてです。海綿鉄やケラ
の不均一な部分は製錬工程である、卸鉄(おろしがね)の時に使いまぜて使い、なま鉄を
造ります。
ここは砂鉄や鉄鉱石、土(粘土のこと)があちこちに置いてありますから。砂鉄は九州、
出雲、岐阜などのほか日本の各地から送られたものや集めたものがあります。真っ赤な粒
状のものを見つけた私は尋ねました『これ赤鉄鉱ですか?』『金生山のものです』『これで
製鉄したのですか?』『はい』非常に不思議な感想を持ちました。真っ赤な赤鉄鉱(ベン
ガラ)がくろがね色の鉄に変身するのです。
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