日本刀に秘められたハイテクノロジー    製作者名  藤間 弘道  ハンドル名  ねこ

日本刀は,原料の砂鉄を木炭で加熱還元した”玉鋼”と呼ばれる独特の素材からつくられます.
刀を作る工程は,かなり多いものです.



1.日本刀の材料の準備

1)へし作業(卸し−焼き入れ−へし金)

最初に,へし作業という,地鉄(じがね)造りから始まります.
玉鋼の塊を加熱して,ハンマで薄い板状に打ち延ばします. これが,鍛造の原点です.
次に,焼きを入れて固くした,”へし金”といわれる板を作る.このへし金は,たたいて多数の小さな鉄片に割られます.
玉鋼のほかに炭素量の多い銑鉄や包丁鉄と呼ばれる純鉄もつかいます.これらはおもに炭素量調整の為の再溶解(卸し)をして,へし金にして小割にします.

2)積沸かし作業(成分調整)

小割した鉄片を,テコという鍛練用の道具の先にモザイク状に積み上げ,崩れないように和紙で包みます.
その表面に藁灰をつけ,さらに粘土汁をかけて,木炭の火床(ほど)の中で表面の粘土が熔けるくらいの温度まで加熱します.

これを”沸かす”といい,沸いてくると鋼の表面が溶け出す音が聞こえ,木炭の焔に火花が混じってきます.
この時,藁灰と粘土は酸化による鋼の焼き減りを防ぎます.

頃合いを見て火床から加熱部分を取り出し,小鎚で打ち固めて幅60mm,長さ90mmの”台”を造ります.
これを積沸かしといいます.

3)下鍛え(折り返し鍛錬 5-6回)

次に,その”台”の上に鉄片を数層積み上げて,全体で1.8から2キロの重さにします.これをもう一度,前の要領で沸かして打ち固めた後,200mmほどの長さに打ち延ばします.

延ばされた部分の中央にたがねで切り込みを入れ,折り返します.折り返した面を鍛接するため再び沸かし,打ち延ばしてはまた折り返します.このような折り返し鍛練は下鍛えといわれ,鋼の余分な炭素を除去し,均質な鋼にすることを目的として5-6回ほど繰り返されます.

玉鋼と銑鉄,包丁鉄のおろしたものはすべて,この下鍛えをし,それが終わるとまた,へし金にして,鉄片に小割します.このようにして,三種類の鉄片が適当な分量ずつできあがり,日本刀の材料の準備が完了します.

2.積沸かし−鍛練−上鍛え

1)積沸かし(合金化)
日本刀は軟らかい心金,棟金と,硬い刃金(はのかね)および側金(がわかね)の四つの部分を組み合わせて作られます.

これらの部分となる鋼は,下鍛えした三種類の鉄片をそれぞれの部分に見合った配合比で混合し,積沸かしをしており返し鍛練を受けます.

2)鍛練(心金,棟金,刃金をつくる)
心金で7回,棟金で9回,刃金では15回も鍛練され,なんと32,768枚の層状組織となります.
3)上鍛え(側金を作る)
鍛練が終わった刃金,心金,及び棟金を三層に組み合わせて鍛接し,厚さ20mm,幅40mm,長さ90mmの材料が4個とれるくらいの大きさに打ち延ばします.これは総称して”芯金”と呼ばれる刀の芯の部分になります.

また,日本刀の表面になる側金用の鋼も,下鍛えした三種類の鉄片を積沸かし,12回ほどの折り返し鍛練を受けます.この工程はとくに”上鍛え(あげきたえ)”と呼ばれます.

3.組み合わせ

鍛練した側金をさらに芯金の倍の長さに打ち延ばし,中央から切り離した後,側金,芯金,側金の順にのせ,サンドイッチ状にします.

4.沸かし延べ−なかごつけ−素延べ−火造り−空締め(冷間加工)

1)沸かし延べ,
これを沸かして鍛接し,厚さ15mm,幅30mm,長さ500−600mmくらいに打ち延ばします.これを”沸延べ”といい,日本刀特有の「複合構造素材」が出来上がります.

2)なかごつけ
その後,テコを切り離し,そこに日本刀の柄になる”なかご”を沸かして鍛接します.
3)素延べ,
ここで重さから仕上がり長さを割りだした後,更に細長く打ち延ばし,最後に小鎚で小さなむらをならしていきます.これを”素延べ(すのべ)”といい,この形状が最終的な姿の原型になることから,長さ,幅,厚みを入念に計測しながら,形が整えられます.

4)火造り
いよいよ,本当の形をつくる”火造り”の作業です.なかごの棟をたたき,丸みをつけ,刀身の棟は三角になるよう先に向ってたたいていきます.次に刃のほうをたたき薄くしていきます.最後に鎬地(しのぎち)をたたいてから全体に姿を直し,刀身全体があずきの色に低い温度に赤めて,徐冷します.
5)空締め(冷間加工)
刀身が冷めたら表面の黒皮を荒砥石で落し,火造りの要領で平地と鎬地をたたく”空締め”という冷間加工をします.これでこれで切れ味が増すといわれています.刀身の表面仕上げのためには棟と刃の線をまっすぐに修正した後,銛(せん)という鉄を削るかんなで小さな凸凹を削り落します.

凸凹がなくなったところで刀身となかごの境に,棟と刃の”区(まち)”をつくり,刃渡りが決まります.その後,銛削りの目をとるため荒砥で”生研ぎ”をし,水を含ませた藁灰で刀身表面の油脂分をとり,乾燥させます.

5.土置き−焼き入れ(反りが生まれる)

1)土置き
次は日本刀に美しい反りと強靭さを与える焼き入れ工程にうつりますが,ここにも研ぎ澄まされた勘と極めて高度な技術がいたるところに要求されます.焼き入れの前に平地用,刃文用,鏑地用の三種類の焼刃土を刀身に塗る「土置き」をします..

土置きでは最初に焼刃土を刀身の平地に均一に薄く塗ります.次に刃文の輪郭線を筆で書いた後,その線から棟までの鏑地面にはさらに土を重ね塗りし,刃先のほうよりも厚くします.このようにすると,焼き入れの時に刃先の薄い部分は急冷され焼きが入り,一方,棟の方では厚い土の為冷却速度が遅く,十分な焼が入らない状態になります.

焼きの入る刃の部分は容積膨張を伴って硬くなり,焼きの不十分な棟の方では靭性に富む鋼となりますが,膨張は起こりません.日本刀独特の反りは,この時の膨張差をたくみに利用し生じさせるのです.
2)焼き入れ
いよいよ焼き入れです.加熱温度を見誤まらないよう仕事場を暗くします.土置きをした刀身を火床に深く刺しいれ,元から先まで約800度にむらなく加熱します.十分加熱された刀身を火床から取り出し,水槽の上で一瞬静止して呼吸を合わせ,一気に水中に入れます.水中の刀身は最初刃の方向へうつむき,それから反ってきます.

刀身が十分に冷却した後,水槽より引き上げ,さっそく荒砥石で研ぎ,焼刃を確認します.思い通りの焼刃が出来ていたら,刀身を木炭の焔の上を往復させて焼戻しをします.これを「合取り」といいます.焼きの入った刀身は反ると同時に横にも曲がるので,合取りの余熱のあるうちに木の台の上で,小鎚で矯正し,なかごも焼き鈍して形を整えます.

6.研ぎ(出来上がり)−登録

1)研ぎ
この後,日本刀の全体の姿や肉置き(刀身の膨らみ具合)を「鍛冶研ぎ」で修正します.注文によっては,この時に刀身の鏑地に「樋(ひ)」と呼ばれるU字形の溝を銛(せん)で削りいれます.なかごは銛(せん)ややすりで形を仕上げた後,目釘穴をあけ,表面に化粧やすりできれいな目をたてます.

最後に鏨で銘を切って刀匠の仕事は終わります.ここから日本刀は研ぎ師に渡され,はばきと鞘をつけた後,仕上げ研ぎをして完成します.

「鞘こしらえ」材料;良く乾燥したホオの木.刀の外観を木地に鉛筆で写す.付きノミにて削る(内削).反りのない刀は反りをつくる(外削).続飯(そくい)飯粒を練った糊で張合せる.(鞘の部分は「平成職人絵伝 関東編」のナント「蒔絵」 (漆工芸)の項目から,MLの熊野さんの調査結果です) 
2)登録
再び刀匠の手元に戻ってきた日本刀は,教育委員会の登録審査を受け,所持許可証をつけ注文主の手に渡されます.手がけてから研ぎあがるまでの期間は3−4カ月との事です.とにかく,ハイテクの結晶だと思います.お疲れ−−−−−!(ものづくり不思議百科;コロナ社JSTP編からの取材でした),
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