箱鞴は杉の柾目を使って作る柔かく弾力があり、強いうえに格安である。 生産地の大坂と紀州杉とのかかわりもあろう。木の割り出しは前面の中央でシマ板の柄を差込む箇所で決める。 とくに胴体の中央が狭く上部がわずか広目になるように作る。けっきょくシマ板を動かしたとき側面の板が弾力あるうにつくるのがコツで、 これが風圧を左右する。シマ板の縁りには毛皮を張る。狸が良いとされ、前記『鉄山必要記事』にもそう書いてある。 最上は貂(てん)であるが高価で用いることは少い。必ずしも皮でなくともよいことを前記の浅須氏から識りえた。 蝋のしみた紙を図のようにシマ板の繰りに固定させ空気の洩れを防ぐのである。また吉川金次氏によれば綿を用いたことがあり、 その場合は一年に一度張り替える必要があったという(吉川、前掲書)。 また近代になってからのことであろうが、箱の底に硝子板を敷くのは、 摩擦を減らし、すり減るのを防ぐ使用者の智恵から始まったのであろう。 耐火羽口と風分庫は風口をつなぐのに用いる桐口(きりくち)は第一図のごとき形のもので、消耗品で、鞴の使用者が手作りする場合が多く、 使い捨てのため残りにくいものである。耐火羽口も鉄の溶ける温度に耐えるといっても消耗品で、前述の出土事例も偶然に残ったものといってよいであろう。 吉川金次氏は、前近代の鍛冶屋の絵においては羽口が炉上に露出されて描かれているが、 それは箱輸用の良質の耐火羽口がまだ使われていなかったことを示しているのではないか、と指摘されている(吉川・前掲書)。 |
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