錬鉄 パッドル製錬

錬鉄  (れんてつ、Wrought Iron : ロート アイアン )

 今から30年以上前のことです。くさりづくりの仕事に入った私は鎖について色々なことを知りたかったのですが、 残念なことに誰も教えてくれませんでした。『見て覚え!!』これが当時の職人気質だったのです。

 あるとき、イギリスの工業規格BS(British Standard)の中にくさりや関連金具が詳しく書かれていることを知り、 辞書を片手に一生懸命読みました。そのとき、どうしても判らなかったことばが ロートアイアン(Wrought Iron = 錬鉄)でした。

 現在の高炉による、製鉄法では1500度以上の高温で、鉄鉱石を溶かし炭素をたくさん含んだ鉄を作り、 酸素を吹き込み、炭素を燃やして脱炭して鋼にします。 1700年代では炭素をたくさん含んだ銑鉄から製錬するのは非常に困難だったのです。 イギリスでは、木炭や木材を燃やし、その熱を炉の天井に反射させて、銑鉄を溶解する反射炉が開発されました。 しかし、温度が低くく鋼の不純物を除去するための精練炉として十分には使えませんでした。

 そこでヘンリー・コート(英)は1783年、反射炉で使う燃料を石炭とし、炉内温度を高くしました。 さらに溶融銑鉄を炉に付けた小窓から鉄棒を入れ、その鉄棒で溶融銑鉄をこねて精練する 『パドル炉精練法(Puddling process)』を開発しました。溶融銑鉄に含まれる炭素、珪素などの不純物は、 炉内の空気中の酸素により酸化されます。この反応は溶融銑鉄表面だけで生じるので、溶融銑鉄を鉄棒でかき混ぜ、 溶融銑鉄全体で不純物を酸化させ、スラグとして除去することを可能にしました。

 この方法により製造された鉄を『錬鉄(Wrought iron)』と呼びます。錬鉄は炭素含有量が0.02〜0.05%と、 非常に少ない軟鉄です。しかし、精練が完全ではないため、非金属介在物も含まれていました。

 錬鉄を加熱、圧延することにより丸棒、角棒、薄板などを作る技術は1785年に開発され、 生産性が飛躍的に向上しました。当時の鉄道のレールは加熱した錬鉄を2個の円錐ロールの棒圧延機を使い製作したものです。 当時の鉄道の発展は、鉄鋼消費量の空前の増加をもたらしました。

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