所訓
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
転落ヤ、崩落ノ危険ニモ負ケナイ
強靱ナ体ヲ持チ・・・・・

タダヒタスラ
  
掘ル
    
掘ル
      
掘ルノデアル。

Triops 通称カブトエビ
田圃に水がはいると、どこからともなく現れ、わずか1ヶ月で突然いなくなる不思議な生物。
太古の昔から生きながらえ、そのひょうきんな外見と不思議な生態は実に興味深い。
数年前、友人にこの生物の標本をもらい、興味を持ち、我が町赤穂を探し回ってやっと見つけた生息地。
農家の方々の協力を得て、1998年より観察を続けています。
文献や資料が本当に少なく、苦労していますが、岡山県立自然保護センターのライブラリーで見つけた
昭和52年度 農林水産業特別試験研究費補助金による研究報告書
水田雑草生物的防除手段としてのカブトエビの生態的研究
広島大学総合科学部 高橋 史樹 氏

の文献が非常に詳細にわたりこの生物について解説されています。
このサイトに掲載されている図はここからの出典です。
分類学上の位置
Arthropoda           節足動物門
  Crustacea             甲殻綱
    Branchiopoda           鰓脚亜綱
      Notostraca              背甲目
        Triopsidae               カブトエビ科
          Triops cancriformis (Bosc)        ヨーロッパカブトエビ
          T. granarius (Lucas)            アジアカブトエビ
          T. longicaudatus (LeConte)       アメリカカブトエビ
          T. australiensis (Spencer and Hall) オーストラリアカブトエビ
          Lepidurus arcticus (Pallas)        ヘラオカブトエビ
カブトエビ属の種の検索表(片山 1973)

1.第2小鰓がない ・・・・・・・・・・・2
  第2小鰓がある ・・・・・・・・・・・3

2.尾節の後縁棘は中央棘とほぼ等しく、明らかに後縁より前方にある。中央棘は大きく、1〜4個で、1列に並んている。
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  アメリカカブトエビ
  尾節の後縁棘ぱ縮少し、後縁に位置する。中央棘は小さく、3−4個以上のときは,散在している。しぱしばないものもある。
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  オーストラリアカブトエビ

3.無肢体節の腹面上には余剰棘がない。中央棘は大きく、1〜4個で、1列に並んている。
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ヨーロッパカプトエビ
  無肢体節には余剰棘がある。中央棘の大きさはいろいろで、5個以上のときは散在している。
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・   アジアカブトエビ
(注)カブトエビ属とヘラ才カプトエビ属とは、後者がその名のよウに尾節が後方に伸ぴて,ヘラ状の肛上板となっていることて区別できる。



赤穂市真殿地区で、現在まで確認できた2種のカブトエビ
アジアカブトエビ オス
  メスと比べて背甲が丸い
  色がやや薄い
  アメリカカブトエビ比べて、大きい
アジアカブトエビ メス
  オスと比べて背甲が大きく、長い
  色が濃い
  オスより一回り大きい
アメリカカブトエビ メス
  アジアカブトエビより小柄で色が濃い
  背甲はスリム
腹側の鰓の様子。沢山の鰓が見事に波打ちながら動いています。
脱皮のときは鰓まで見事に脱皮します。
カブトエビの同定は口器と尾部の棘(とげ)の配列の状態で区別します。

検索同定法
上記検索表(片山、1973)により大きく2つのグループに分類されます。
しかしながら、実際には口器の第2小腮は非常にわかりにくく、現在までにこの器官の有無による検索はできておりません。
したがって、上記の同定は主に尾節の形状と構造の差異による検索です。
ヨーロッパカブトエビとアメリカカブトエビ、アジアカブトエビは無肢体節の余剰棘の有無により分類できます。
アメリカカブトエビとアジアカブトエビとは、尾節背面の後縁棘と中央棘との位置関係で分類できます。
地方変異があるの可能性が高く、同定精度が悪いかもしれませんが、現在のところこの方法しかありません。
片山、秋田による分布調査によると、ヨーロッパカブトエビは山形県酒田市を中心とする地域のみに分布し・・・というくだりがありますが、その後分布域が大幅に変化した可能性があります。
赤穂市真殿地区の田圃M−01(個人的呼称)の個体にはあきらかにヨーロッパカブトエビの特徴を持った個体群が分布し、なおかつ雌雄の区別もつきます。
上画像は田圃M−01のオスと思われる個体の尾節上部の構造で、無肢体節に余剰棘がなく後節棘の位置がヨーロッパカブトエビと一致しています。
この水田には、アジアカブトエビ、アメリカカブトエビが混在しており、種、雌雄の同定を困難なものにしています。今後長期にわたった観察が必要と思われます。
この地区の水田は、減反が進んでおり、これが目下最大の心配事です。



毎年調査している田圃M−01 大発生の模様
2002発生個体・7日後
ホウネンエビ (オス)
観察飼育採卵水槽です。卵を見やすくするためと、捕食を避けるため1センチのガラス玉を敷き詰めています。
やっとのことで7月6日、成熟したアジアカブトエビのメス個体6匹を捕獲しました。
体長は40mm近くあり、いつ見ても迫力があります。
雌雄比は10:1ぐらいでしょうか、オスに比べてメスの数はすごく少ないです。
色がかなり濃いので、オス個体に比べて目立ちません。まさに迷彩の兜です。
観察皿に移して抱卵状況を観察中、放卵しました。それにしても大型です。体長は45mm。
もうすぐ中干しの時期ともなると、イネはかなり大きくなっています。中干しはこれから更に大きくなるイネが倒れないように根をしっかり張らすための処置です。
もうその時期が近いことをちゃんと知っているのか、あのちょこまか動き回っている時期がなつかしいほどのそのそと泥上をはいまわっています。背甲には藻類が目立ちます。
長いようで短かった観察が終わった日、夕焼けの中・・・・

観察を終えて、問題提起と反省
  1. ほとんどの水田で背甲形状が明らかに異なる雌雄とおもわれる個体を確認したが、これらはアジアカブトエビであろうか?アメリカカブトエビは今年はいないのだろうか?アメリカカブトエビはメスしかいないはずである。今後、全個体の詳細な種の同定が必要である。
  2. 産卵の仕方はどのようにするのだろうか?あれほど観察したのに卵袋を持った個体は確認出来なかった。放卵した個体においてもひっくり返して観察すれど、卵は確認できずじまい。気が付けば放卵していた。
  3. 今年も初動体制がなっていなかった。気が付けばもはや完全な成体形状になっていた。来年こそ・・・・
  4. 水田ではまったく不明だが、本当に草食なのだろうか?飼育水槽では共食いに近い状態がかなり観察できる。死体にはすぐに群がり弱った個体はすぐにターゲットとなる。ひょっとして骨格に必要な材料をこのようにして調達しているのではないかと思ったりする。
  5. 従来の農薬や肥料に弱いという説には、疑問を生じた。今年はヒエ殺しという除草剤を散布していた水田にも大量発生した。この除草剤は魚をも殺すほど強いらしい。一時的に大量に死滅したときは、高水温による酸素濃度の低下の可能性が高いものと思われる。このとき水位は著しく低下し、水温は40度近くまで上昇したものと思われる。

お願い
田圃は農家の方々が大事にしている持ち物です。
カブトエビはその中に住んでいます。
田圃に入ったり、荒らしたりしては絶対にいけません。
太古の昔から地球にいるこの生物、環境の変化に非常に敏感です。
大切に見守ってやってください。
くれぐれも無用の殺生はなさらぬようお願いします。

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