<ミクロネシアの海図>

 幅7ミリ、厚さ1.5ミリほどの、ココヤシの葉柄(ようへい)をうすくはいだヒゴで形を作り、 要所を細いヤシの糸で留めてある。子安貝は島の位置を示している。

 オセアニアの一万におよぶ島々に人が住み始めたのは、紀元前のことである。
彼らは、もとより羅針盤(らしんばん)や 六分儀(ろくぶんぎ)などはもっていなかったが、天体や海洋の現象を観察し、それらの知識を巧みに利用することによって、 独自の航海術を編み出していった。なかでも、ミクロネシアのマーシャル諸島民は、海のうねりを中心に、独特の海図を作り出した。

 この海図は、もともと若者への航海技術教育の教材として使われたもので、大きく分けて三種類がある。まず、「マダン」は、 東西のうねりが島にあたって変化する現象をあらわした、もっとも基本的な模式図である。貝が島の位置を、曲がったヒゴがうねりを示している。 「メトー」は、マーシャル諸島の一部の島々の位置関係と、航海で出会ううねりの特徴を示した海図。
「レペリブ」はマーシャル諸島のすべての島々の位置関係を示したもので、位置関係は正確だが、距離は異なる。
航海に要する時間をもとにしているので、波が荒くて時間がかかる場所は、実際より長くあらわしていたりするからである。

 この海図は、1860年代に、はじめて西洋人に紹介され、衝撃を与えた。しかし、19世紀以来、外国から動力船がはいってきたために、 伝統的な航海術は必要でなくなり、今では、現地でも、この海図の知識をもつ人は少なくなっている。

世界一周 道具パズル 小林繁樹 著  光文社 1988年 P126

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