明日の名盤 


springout スプリングアウト


springout スプリングアウト/時代

(GYUUNE CASSETTE / CHILDISH SOUP CSCD-07) ¥2300- 
2000年9月1日発売

曲目 @イントロ〜春を待つ Aむかえにいくよ B星に願いを C熱風99’D風化 Eきれいだね F青空 G街のあかり Hスピン I時代


マスタリング中のスプリングアウト
写真左から、福山(Drum)、林(Bass,Vo)、西原(Guitar,Vo)


(ライナーノート)
我々の『春らんまん』は何処に在ったのか    長谷川光平

 この原稿を書く前に、バンド名のスプリング・アウトをどう訳せば良いのか、彼等に聞くのを忘れていた。しかし、仮にOUTを『全開』と訳せば、はっぴいえんどの曲、『春らんまん』と同じだということに今気が付いた。ヤラレた・・・。しかしこのアルバムを聴けば、バンド名の直接性も頷いていただけるだろう。これは、姫路に住むブルーカラーの若者たちが友人を向かえに行くために、知らない街の地図を拡げているようなアルバムだ。地図の先には勿論、春があるのだろうが、『姫路に住むブルーカラーの』という現在地点がまずここに在る。
 彼等は本当に渋谷が何処に在るのか知らない。笑われるだろうが仕方が無い。彼等は、こちらのバンド達の例に漏れず、昼間は姫路の労働者たちだ。ドラムのマサシは、いつも整備士のツナギのままでスタジオに来たし、ベースの林君に至っては、配管工事の仕事がキツイらしく、度重なるダビングの録音途中、ベースを弾きながら寝ていることもあった。私は彼等のレコーディングに付き合いながら、「もっと他に青春の過ごし方があるだろうが・・・」と内心思っていたことを白状する。
 しかし、姫路のような地方では、東京や大阪から情報が押し寄せて来る反面、不景気に喘ぐ大半の若者達は何処へも行けない。車やバイクで下道(高速道路の下の道)を飛ばすか、それとも早くから身を固めてしまうか、彼等の選択の余地は余り無い。しかしそんな背景こそ、90年代以降のオルタナティヴ(二者択一)な動きと無縁ではなかったのだ。 地方に居ると文化的には殆ど地元では誰も理解してくれない。でもそんな負の側面が逆に人間を鍛えることもある。なぜなら『音楽に思いを託す』という芸術行為が、まるでSOS信号のように、素直に必然性を帯びていたからだ。外から「関西オルタナの更なるオルタナ」と言われていた我々が、意識せずとも暗黙のうちに感じていたことは、たぶんそのことだ。
 こうした思いを託す直向(ひたむき)さは、一見平和なフォーク・ロックに聞こえるスプリング・アウトの歌の中にも、十分感じられるはずだ。彼等の声そのものの直向きさは、忘れていた、いくつかの心の場所を思い出させるだろう。こういう言い方は嫌いかも知れないが、もともと星空は都会より田舎の方がよく見えるものだ。彼等は、そんな夜空の下で子供のように『星に願いを』かけながら、2000年を迎えた。ちなみにメインで歌う、西原と林の両者は、岡山と広島の出身で、『望郷という微熱』をテーマにバンドを結成したという。更なるオルタナに居ても異邦人の感覚をまだ拭えない、そんな彼等の心の背景を描きながら、このアルバムを聴いていただけたらと思う。はっぴいえんどから30年経った訳だが、いったい我々の『春らんまん』は何処に在ったのかと。地図に無い街を本当に探したのだろうかと。

 さて殆ど無名に近い彼等の資料を少しだけ添えておきたい。スプリング・アウトは1999年にバンド名を改名しているが、それ以前は「プール」と言って、1995年に結成された。’98年暮れに発売されて反響を呼んだオムニバスCD、『マッシュルーム・ア・ゴー・ゴー!』で「朝」という曲を演っているのは彼等だ。今までに制作した3本のデモテープを含む彼等の楽曲が、レーベル『チャイルディッシュ・スープ』の目に止まり、今回のアルバム制作の話が進んで行った。
 このアルバムは、マッシュルームのスタジオで作られた。1999年の7月から2000年の1月までの、約半年の間のことである。録音機はヤマハのMD8だけだ。デジタルとは云え、8トラック録音である。ピンポン録音をしたのもほんの数曲だけだ。ただ要所要所にサンプリングを使用した曲はある。それらの全てを、リーダーの西原忠が決定した。私は隠しトラック(CDの11曲目)以外は、一切横から口を出していない。アレンジを含む創作の全ての行程を計画実行した、西原の才能と努力は認めて余る程だ。
 そして各曲には、それぞれに様々な引用やヒントやアイデアが隠されているが、それらは聞き手(あなた)の楽しみのために伏せておく。1曲目のロック・バラードでオルガンを弾いているのは、怖(COA)のエディだ。手前味噌で申し訳ないが、私はスプリング・アウトとエディと、『光平&音もーズ』と称する、はっぴいえんどや日本のロックのカバー・バンドを時々ライブでやっている。このアルバムは、そんなライブの合間にも録音された。このアルバムに、レイドバックした雰囲気があるとすれば、そんなマッシュルームの時間と空間と出会いがあったからだろう。それらの全てに感謝を捧げたい。
 
それでは、スプリング・アウトな一時を。(2000年7月某日、姫路にて)



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