BEDSIDE BOOKS

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音楽や詩など 取り敢えずの七冊(2000.10.15. 更新)



ぼくはプレスリーが大好き
片岡義男 (角川文庫 1974年初版発行 現在絶版)

単行本は1971年に三一書房から刊行されている。1950年代末から60年代末までのロックン・ロールを、若き文学者が日本で初めて、歴史と社会の側面から探求し、定義付けた名著。この本が長い間絶版になっていること自体が、現在のJポップ主流の日本のロックの鎖国性と退行を現わしている、と僕は思うんだけど...。“個人の努力による経済的成功が現実になりうるとして、それをもっとも小さい状況でながめなおすと、自分の成功は他人の犠牲にほかならない。犠牲者は黒人だけではない、オレたちもここにいるのだ、とブルースをとおして白人がはじめて発言できたのが、ロックンロールだった。”(142ページから抜粋)



カトマンズでLSDを一服
植草甚一 (晶文社 植草甚一スクラップ・ブック11 1976年発行 現在絶版)

植草甚一氏は、老年を過ぎてからフリー・ジャズに傾倒し、ビートからヒッピーに至る'60年代のアメリカの対抗文化をスクラップし始める。今から思えば本当に不思議だが、この本が発行された1976年でさえ、日本ではこの手の、例えば、アーロ・ガスリーの「アリスのレストラン」を紹介するような、日本人が書いた本は他に無かった。そうしたカタログ提供の先駆者でありながら誰の追随も許さないのは、氏の生粋のものに対するこだわりが、欧米の大衆文化に向けられた時、われわれの底の浅さへも目を転じさせたからだ。そこに散歩・収集・勉強家としての“発言の自由”があった。『憲法』を心から愛していたに違い無い。初期のスズキ・コージ氏の挿絵もいい。



ビート詩集
片桐ユズル訳編 (国文社 ピポー叢書66 1962年初版発行 現在絶版)

ぼくはこの詩集の第二版(1970年版)を、'77年(19歳の時)に神田の古本街で買った。その本屋でこの本を手にした時の喜びや、店内の様子を僕は今でもはっきり思い出す。初版が1962年だから、この本は恐らく日本で初めて紹介されたビート詩の詩集なのだろう。ビートルズ以前にこの本を読んでいた人は、どんな人達だったのだろう。今となっては、ジャック・ケロワック、アレン・ギンズバーグなどの有名になった詩人以外の、埋もれたビート詩の翻訳をも読める貴重な詩集。小さな集りで詩を朗読する当時の写真が多数掲載されているが、まるで闘争集会のような光景だ。



おっとせいは中央線に乗って
友部正人 (思潮社 1977年発行)

これは友部正人さんの一冊目の詩集。'72年のURCのデビュー盤「大阪へやって来た」から'76年の発禁アルバム「どうして旅に出なかったんだ」までの歌詞が読める。この本の出版記念ミニ・ライヴが、池袋の西武デパートであった。ぼくが持っているのは、その時買ったサイン入りの本だ。ぼくは19歳の時から3年間、東京に住んでいたが、その頃は本は余り読まなかった。しかし詩集発行から23年にもなるが、これ以上、胸に付き刺さる歌を、ぼくは今の若い人の歌の中に聞いたことがない。ここ6年間も僕はライブハウスで働いていたのに、この歌を越える新人を目撃したことが無かった。そういう意味からこの詩集は、ぼくにとって今だに新しい。



ギターをとって弦をはれ
ウディ・ガスリー 中村稔・吉田廸子訳(晶文社 1975年発行)

この本は、アメリカ最大のシンガー・ソング・ライター、ウディ・ガスリー(1912〜1967)の前半生を描いた自伝「栄光への道」“Bound for Glory”(1943)の全訳である。 砂嵐によるオクラホマ難民のひとりであったガスリーが、貨車のただ乗りやヒッチハイクをしてルート66を放浪してゆく。そんな貧困の時でさえ、ウディは、真珠湾攻撃直後のアメリカの熱狂的な愛国主義が荒れ狂う中、暴徒たちのリンチにさらされかけていた日系人の一家を救っている。「日本人にもいいのと悪いのがいるんだ」と戦争ヒステリー患者たちに向かってガスリーは言う。こうした音楽以前の在り方を、ウディほど身をもって示した人は少ない。



サイケデリック・シンドローム - それはビートルズから始まった -  
デレク・テイラー著 水上はるこ訳 (シンコー・ミュージック 1988年初版発行)

ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインのアシスタントも勤め、モンタレー・ポップ・フェスの主催者だった、デレク・テイラーによる、1966〜67年の回顧録。これ程この2年間のサイケ現象だけを克明に記した本は珍しい。とかく日本のスノッブな連中は、アンダーグラウンド・サイケのみを語るが、そういう二流には「この本を読みなさい」とお薦めしたい。僕が90年代半ばに、マッシュルームの店長として考えていたことの多くは、この本からヒントを得ている。しかしそんなことも今や懐かしい。この本も現在絶版か?



風の歌 ブルーグラス
ロバート・キャントウェル著 木邨和彦訳(旺史社 2000年初版発行)¥4,000

これは現在、日本で唯一読める、ブルーグラスについての専門書の翻訳本。自らもプレイヤーであり研究家の著者が、ブルーグラス、特にその創始者であるビル・モンローのハイ・ロンサム(孤高)を、歴史と共に浮き彫りにさせる労作。ロックン・ロールにも多大な影響を与えた、この過激なクリエイター、ビル・モンローへの認識は、日本ではブルースほど語られない。また、現代アメリカのアヴァンギャルド界の異才、ユージン・チャドボーンなどは、ブルーグラスのバンジョー・フェスにも時々参加してハチャメチャな演奏をしているが、日本の前衛派の間では余り知られていない。ブルーグラスの過激さに乾杯。


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